登場人物
「ねぇ」
「君は、どうなったら『世界は本当に終わる』と思う?」
「ふむ」
「『ヒト』という存在が、完全に滅びたら…?」
「それが、一番身近で、簡単に想像できることだろうね」
「でも…知ってるかい? 進化と言う過程のこと」
「ひとつの動物から、世代を経て、形質を変化させる事によって、適応した体になっていくことなんだけれど」
「ヒトが滅んだとしても…他の生き物がいるだろう? 家畜などの獣が」
「もしかしたら彼らが生き残って、遠い時間を経て、彼らが新たなヒトとして進化するのかもしれない」
「そうなったら、殆ど元通りだ」
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「…では、ヒトの他に、獣も滅んだら?」
「獣が滅んだら…そうだね、次は魚や鳥の出番かな?」
「そのうち、なにもかもが消えた陸を埋めるようにして、彼らも進化し、繁栄するかもしれないね」
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「…鳥や魚も滅んだら、か」
「……そういえば、全ての生き物は海から始まったらしいね」
「海に含まれる小さな『生命のたまご』から、どんどん育っていって、今の姿に落ち着いているんだと」
「そうなったら」
「そのたまごから育つ命が、今後の『世界』を担っていくことになるのかな」
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「……それも滅ぼしたら終わりになるんじゃないかって?」
「破滅的な思想だなあ」
「でも、それだって、わからないよ?」
「『世界の外』って…考えたことはあるかい?」
「地を支えたカメが、大地を…? ふんふん」
「きみは旧い知識を知っているね」
「じゃあ、それを例にしてみようか…」
「そのカメが『世界』をのせている」
「それは、何もかもが滅んでしまった『世界』だ」
「しかし、このカメ、存外に首が長い。 首を大きく傾けて、あろうことか背中に乗せた『世界』に向けて『くしゃみ』をしてしまったとしよう」
「世界程の大きさのあるカメのくしゃみを受けて、海が揺れる、陸が揺れる」
「『世界』を揺らす大きなくしゃみだ」
「それに混ざって、偶然にもカメのくちばしに挟まっていた『生命のたまご』が、ぽちゃんと『世界』の海に落ちてしまったり」
「…それはずるいって?」
「そんなわけのわからない偶然まで入れたら、きりがない? そうかな…私はあると思うけれど」
「…問い方がまどろっこしい?」
「…」
「本当は何を言いたいのかって?」
「…『世界は何処まで行っても続いてゆくのか、どうか』とかかな」
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「君は考えた事があるかい? 私達が今を生きる前の世界がどんなふうだったかってさ」
「…建国前とかではない、かな。もっと前」
「私達が『私達』として名づけられる前の話だよ」
「…わからない? そうだろうね 私もわからない」
「私達の命には限りがあるからね、そんな短い間じゃ、この『世界』の全ては見通せない」
「でも、私達は1000年前のことを断片的に知っているね」
「それは、過去にその時のことを『記録した誰かがいるから』だ」
「その昔に『記録した誰か』が居なければ、私達は遠い昔について知る事もできない」
「まぁ、昔使っていたものを堀り起こしたりして、推察するくらいなら出来るけれどね……それは置いておくとして」
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「考えたことはない?」
「『私達が生きる前に、誰かが居たのか』とか」
「…遺跡とかじゃなくて、遺跡すら建つ前の話」
「名前も、痕跡も残されていない『誰か』の存在」
「…」
「実は、この『世界』に生きたヒトが前にもたくさん居て」
「そして、滅んでいて」
「私達が『何度目か』の『生命のたまご』である可能性とか」
「…頭が痛くなってきた? そっか、ごめんね」
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「…自論だけれど」
「例え、その時に繁栄した『ヒト』に当たるものが幾度と衰亡の道を辿ろうが」
「命の巡りそのものは、あっさり滅びるものじゃあないと思うんだ」
「生き物も、生命のたまごも全て、この『世界』からは消え失せても」
「天文学的な確立を引き当てた【偶然】か」
「はたまた、【必然】か」
「どちらにせよ、私達の預かり知らぬところで『世界』にたまごを投げ込んでくる」
「それは誰の手によるものなんだろうね」
「誰が引き起こすものなんだろうね」
「神様ってやつかな」
「…」
「ねぇ」
「君は、どうなったら『世界は本当に』終わると思う?」
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「ヒトが滅んだとして」
「私達にとっては終わりだとしても」
「『世界』にとってはそれは『終わり』なのかな」
「もし、『世界』に住むものが全て滅んで」
「『世界』に住まう何もかもが終わりを迎えた時」
「『世界』と、『世界』をとりまく全ては『終わったまま』で居られるのかな」
「言ったところで、確認しようがないんだけれどね」
「…」
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「ああ、もうこんな【時間】か」
「時間が【進む】のは早いね」
「おやつでも食べようか 君もどうだい?」
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(客人が帰った後)
「……」
「久しぶりにあんな話をしたよ」
「私だって、世界にとってはちょっと出過ぎた若造くらいにしか取られないだろうね」
「……何だ」
「別に、今言ったことを追求していきたいってわけじゃあないさ」
「そんな顔をしなくても、軽率に破滅を促す気なんて毛頭ないよ…」
「ただ、中々与えられない『終焉』にやきもきしてるだけ」
「…」
「…知識を得て、貯めるのが目的と言うのなら『適役のアーキビスト』が既にいるはずなのにね」
「この『世界』に住む命として、何度も体験して、魂に刻み付けながら学べとでもいうのかね」
「ヒトに過ぎたる力を与え給う、神様ってやつは」
「あっ、やっばい、急に右足つった」